INTERVIEWS
SPECIAL INTERVIEW | 乃村工藝社
「手間のかけら」が教えてくれる、モノの大切さ
空間の企画・デザインから施工・運営まで、総合的なプロデュースを手掛ける乃村工藝社。DESIGNART TOKYOへの出展を続けており、2023年からは、サステナブルな社会に向けて、問いとデザインアプローチを行っている。今回もまた、新メンバーが結集して、新たな視点で、空間づくりを生業とする乃村工藝社だからこそのメッセージを打ち出していく。メンバーは、若手を中心に、日頃それぞれに企業PR施設や、ホテル・レジデンス、博覧会などの空間デザインや、ブランディングのデザインを手掛けるデザイナー6人と、現場の統括や施工管理などを担当する制作管理の1人で、「ものづくりの裏側」にフォーカスするという独創的なテーマに挑んだ。 未知なるプロジェクトに情熱を傾ける彼らに話を聞いた。
あまり目を向けられることのない、ものづくりの手間や知恵に光を当てたい
清水さん(以下敬称略)「普段私たちが空間を作っている過程には多くの時間や知恵が関わっているのですが、あまりそれに目を向けていただく機会がないよね、というのが出発点でした。その『手間や知恵のかけら』を集めてみなさんに見ていただき、心に刻んでいただくことで、日常生活でのふとした瞬間にモノの大切さに気付くきっかけになればと考えています。あくまでこちらからの押し付けではなく、人それぞれにいろんな感じ方で楽しんでいただければと思います。 」
安田さん(以下敬称略)「ここにいるチームのメンバーは僕も含めてデザイナーがほとんどで、その視点に基づいているからこそ生まれたコンセプトであるように思います。日頃現場や工場に検査などで行くことはあっても、職人の方々の、生の声を聞くような機会がなかなかない、という課題感を逆転の発想で捉えて、『作り手側』と『デザイン側』の目線が重なるような展示をすることに、意味が生まれてくるんじゃないのかなと考えています。」
渡辺さん(以下敬称略)「最終的に『CREDIT』というテーマに決まるまで何ヶ月も議論しました。インスピレーションの源になったのが、スーパーマーケットでよく目にする『顔が見える野菜』。他より多少値段が高くても選びたくなるのはどうしてだろう、と考えた時、もしかしたら生産者の顔というものが、デザインにおける『手間』や職人さんの『工夫』に置き換えられるのかもしれないと、考えました。手間や工夫が見えることで『信用』度が上がったり、映画のクレジットのような、ものづくりの裏側を見てもらうことで価値が上がったり。そういった意味も込められています。」
一つひとつの道具に時間や知恵が刻み込まれている
渡辺「私たちが手掛ける空間作りは1点物が多く、中にはオートクチュールのような場合もあります。特注のモノを作るには特注の道具が必要、という感覚ですよね。」
安田「道具も既製品じゃなく、いろんな知恵が凝縮しているというか。」
清水「そうだね。もっとこうだったらいいな、という工夫が時間と共に積み重なって形を変えていく 。例えば…」
清水「これは丸ノコギリで板を細く加工する時、手の代わりに押さえる道具。蛇のようなフォルムには遊び心がありながらも、最適な角度や持ちやすさを追求して形作られています。また、蛇の目のように見える穴は、壁に掛けて収納できる工夫でもあります。 」
西原さん(以下敬称略)「これは塗装加工するものを吊るすためのハンガー。最初は針金のような細さだったものが、時間と手間を重ねて何十倍もの厚みになり、さまざまな色の塗料が幾つもの層になっているのがわかります。」
金属工場の職人さんが作業のミスを防ぐために長年使っている、
『金属のメモ帳』。本人にしかわからない座標軸で書かれている。
プロジェクトを、さまざまな視点でデザインする
清水「今回のように、メンバーがジャンルを越えた複数の部署から集まって空間のインスタレーションに挑戦していることで、気付きが多く発想の幅も拡がりました。」
豊田さん(以下敬称略)「私は普段グラフィックデザインが中心なので、違う脳を使っている感覚がありました。一方でブランディングにも携わっているので、一つの軸やテーマをいかに表現して伝えるかという点においては経験を活かせたように思います。」
山梨さん(以下敬称略)「私は入社2年目で、まだ別の部署の方と一緒にプロジェクトを進めるような機会が少なく、こうして活発にディスカッションしながら、思いを一つに展示を作り上げていくことがとても新鮮でした。」
安田「今回のプロジェクトには、6人のデザイナーに加えて、制作管理を担当する新井さんが企画段階から参加しています。デザインの具現化のために、日常的に職人の方と話し合ったり創る工程を考案していたりする新井さんのおかげもあって、アイデアやプランニングでより現場的なものづくりの視野が拡がっているように思います。」
新井さん(以下敬称略) 「制作管理の私と、ここにいるデザイナー陣とは全然視点が違っていて、例えば工場に転がっている、私にとっては珍しくないようなものも面白がっている様子が私には新鮮に感じます。職人さんも同様のようで、驚きながらも快く協力してくれていますよね。」
西原「新井さんが普段から懇意にしている職人の方々と、私たちデザイナーを橋渡ししてくれているのがありがたいです。どういう場所に行ったらどういうものがある、ということに精通しているので、解像度高く現場のリアルを反映することができます。」
新井「私から見ると、例えば特殊な部品を作っている工場よりも、街中でもよく見かけるような金物工場の方が、より親しみを持ちやすい知恵や工夫が多く見つかるように思うんです。例えばそういう視点も含めて、『手間』のかけらたちを興味深く見ていただける展示にアップグレードできたらと。」
モノに宿る手間のかけら=CREDITが、私たちの心に刻むこと
清水「この展示をきっかけに、『モノを大切にしたい』と思う気持ちを一人でも多くの人に感じてもらうことができたらと思います。モノを大切に思うことで、日々の暮らしが少し豊かになるのかもしれない。そういうのも含めて感じてもらえたら。」
渡辺「意味がなさそうに見えるものでも、ちゃんとその役割を持って生まれてきている。例えば、何十年も下敷きとして使っているベニヤには何十年分の試行錯誤や工夫の積み重ねの跡が残っています。」
安田「今の世の中、インターネットで注文するとすぐに届く半面、便利だが誰がどれくらい関わって作られているかは見えづらい。そういう物で溢れていて。そういった合理性みたいなものとは違った、モノの見えない価値を伝えるということを続けていきたいです。さらに、デザイナー側と作り手側という、人と人を繋げるきっかけをプロデュースできる展示になれば。」
豊田「これまで空間やその中に存在するモノを『作ってきた』印象が強い乃村工藝社が、『すでにある』モノを集めてきて展示し、新しい価値観を示す手法をとったことは、良い意味での意外性が出せるのではと思っています。加えて、一般的に『珍しい』物を作る背景というものは紹介されがちだと思うのですが、『よく見かける』物の裏側を見せるというのが逆にユニークポイントかなと。」
西原「今回はものづくりの過程で出てくるオブジェクトを拾い上げることで、その裏側を色濃く映し出しています。それは私たちのようなデザイナーも現場に入ってものづくりに立ち会える、設計施工までトータルに携わっている乃村工藝社だからこその強みでもあると思います。」
山梨 「今回は、新しいモノや美しいモノを一から作り上げるのではなく、普遍的なモノの裏側にフォーカスしたプロジェクト。日常の中に、当たり前に存在するモノに込められた手間や工夫を感じ取っていただけたらと思います。デザインする側と物を作る側、いろんな人のネットワークが結集したからこそ実現することができました。」
清水「私たちの身の回りにある『モノ』は、完成した姿だけでは語り尽くせません。そこには、数えきれないほどの人の手間や工夫が積み重なり、まるで映画のエンドロールのように多くの人が連なっています。素材を選ぶ人、形を整える人、仕上げを工夫する人——一つひとつの過程に人の知恵と思いが宿り、その連鎖がものづくりの裏側を支えています。それを知った時、『選ぶ判断基準』や『見方』に変化が起きるのかもしれません。」
Interview and Text : Yoko Isashi
BRAND / CREATOR
株式会社乃村⼯藝社
乃村⼯藝社は、商業施設、ホテル、企業PR施設、ワークプレイス、博覧会、博物館などの企画、デザイン、設計、施⼯から運営管理までを⼿掛ける空間の総合プロデュース企業です。グループ全体では、全国11拠点・海外9拠点、国内外7つのグループ会社で事業展開しています。1892年(明治25年)から培ってきた総合⼒を活かし、フィジカルとバーチャルを融合させた空間価値の提供で、⼈びとに「歓びと感動」をお届けしています。
昨年のDESIGNART出展(「Being-家具が居ること-」)に続き、今年は「CREDIT-手間のかけら-」をテーマに出展します。
https://www.nomurakougei.co.jp/