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SPECIAL INTERVIEW | Dumb Type

変わり続ける“窓”から世界の今を感じ取る ──ダムタイプ・高谷史郎インタビュー

日本のアートコレクティブの先駆的存在、Dumb Type(ダムタイプ)。メンバー構成をはじめ、集団としてのあり方そのものに変化を重ねながら活動してきた彼ら/彼女らが、現在取り組んでいる作品のひとつが《WINDOWS》だ。2024年、東京・京橋のオフィスビルに姿を現したこのパブリックアートは、鑑賞者に現在進行形の地球の姿を想起させながら、東京という都市の只中に新たな“窓”を開いている。本作に込められた想いや、変化し続けるアート作品の意味について、ダムタイプのメンバーである高谷史郎に尋ねた。

変化し続けるアート作品

── 《WINDOWS》とはどのような作品なのでしょうか。

高谷史郎(以下、高谷):「視野の開放」をテーマとした、世界や地球の今を感じ取ることのできるメディアアート作品です。世界各地のライブカメラが捉える映像をリアルタイムに収集し、再構築する独自のアルゴリズムを組んでいます。1枚の窓に見立てられた大型のLEDディスプレイには、地球上のさまざまな風景が映し出され、鑑賞者はオフィスビルにいながらも世界全体に思いを巡らせることができます。

── 本作が最初に発表されたのは2024年11月。ダムタイプにとって初めてのパブリックアートとして東京・京橋のオフィスビル、ミュージアムタワー京橋に設置されました。このたびの続編公開は、当初から構想されていたものなのでしょうか。

高谷:最初から3年計画で進めていて、毎年、段階的に変化を重ねていく作品にしようと考えていました。大型ディスプレイを主軸とするハードウェアに入力される情報ソースを更新し続けることで、常に新しい状態を保つ。時間とともに変化し続けるという性格は一貫しています。

── 彫刻や絵画のように、固定された姿を持つ芸術作品とは対照的です。

高谷:それがメディアアートのあり方だと思うと同時に、アートの本質なのではないでしょうか。作品が不変の価値を持つのではなく、それぞれの鑑賞者の内にある感覚や記憶によって異なる体験や意味が立ち上がる。それこそがアートとのコミュニケーションだと思うのです。

ビル屋上から捉える、京橋の空

── 今回の続編制作では、具体的にどのようなことをされたのでしょうか。

高谷:京橋の空をモチーフに加えました。ビル屋上に全天を撮影する魚眼カメラを設置し、雲の動きや光の変化など、空の情景をリアルタイムで捉えています。世界各地の映像を通して地球を感じるときに、鑑賞者自身がいる場所もその風景に含まれていることが重要だと考えたのです。
 一般にSNSでは空や雲の写真が多く共有されていますが、《WINDOWS》では時間軸を持った映像として空の変化を体験できます。作品を見た後に実際に空を見上げると、「こういうことだったのか」と、世界への気づきを得るような瞬間が訪れるかもしれません。今回の制作過程においては、京都にあるダムタイプのオフィスの屋上にも同じカメラを設置し、都市とは違う自然の姿を記録しています。将来的には世界各地に同様のカメラを設置して、地球全体を映し出す装置のように広めていけたら面白いのではないかと考えています。

── なぜ空を選んだのですか。街並みを映すような案もあったのでしょうか。

高谷:カメラの設置場所や撮影対象はさまざまに検討しましたが、例えばビルの監視カメラ映像を使う発想はありませんでした。《WINDOWS》では、世界中の小さなカメラを通して「丸い地球」を感じて欲しいという想いもあったことから、そのための要素として、太陽や月、雲の動きを捉える空がふさわしいと考えたのです。

―― 実際にできあがった映像を前に「いつまでも眺めていられる」と感じたそうですね。

高谷:雲や太陽の動きを眺めていると、地球や宇宙の仕組みにまで思いを巡らせることができて、飽きることがありません。都会の人混みも自然や環境の一部ですが、この作品が「人間は依然として大自然の中にいる」ということを思い出すきっかけになれば嬉しいです。

作品空間との対話

―― 今回の続編では新たな音づくりにも取り組まれたそうですね。

高谷:ビル周辺の環境音を取り入れたり、建物に伝わる微細な振動を音に変換する試みをしています。ガラス越しに遮られていた街のざわめきが突然聞こえたり、普段は意識しない振動を耳で捉えたりする。外に出たときに「世界はこんなに音に満ちていたのか」と気がつく体験につながるはずです。

―― 映像と音が重なり合うことで、鑑賞者は身の回りの環境そのものを再発見するわけですね。作品の展示場所がオフィスビルのロビーであることも、鑑賞体験におおいに関わる要素に思えます。

高谷:美術館の展示室に作品を「見に行く」態度とは違って、待ち合わせや通りすがりにふと出会えるということ。それが面白いんです。パブリックアートであることを強く意識したことはないですが、作品や空間との偶然の出会いが新しいコミュニケーションを生み出します。最初はその意味を理解できなくてもいいし、時を経て再び出会ったときには以前とまったく違う体験になるかもしれない。それらすべてが、作品との出会いなのです。
―― 映像や環境音など、鑑賞者と空間をつなぐメディア、リアルタイムに収集されるデータを安定的に管理することも重要な観点となりそうです。

高谷:日々、膨大なデータ量を扱っています。インターネットを介してアクセスできる地域とそうでない地域の偏りも顕著で、そこからどのように世界全体を伝えるかということを試行錯誤してきました。《WINDOWS》は、自由なはずのインターネットの中に存在する「分断」を可視化する作品であるようにも思います。その事実をどう見せていくのかも、これからの挑戦です。
―― 《WINDOWS》の3年計画において、今後の展望についてはいかがですか。

高谷:詳細はまだ話せませんが、そのような「見えない領域」をどのように扱うかということがテーマになりそうです。「見えていないもの」に気づくこと、社会の分断を伝えるための表現を探りたいと思っています。

Interview and Text : Tomoyoshi Hasegawa

BRAND / CREATOR

Dumb Type
高谷史郎 Shiro Takatani

アーティスト。1984年よりアーティストグループ「Dumb Type(ダムタイプ)」に参加し、集団による共同制作の可能性を探る独自の活動を続ける。ダムタイプはプロジェクトごとにメンバーが変化する緩やかなコラボレーションを通じて、現代社会におけるさまざまな問題への言及をはらむ作品を制作。美術、演劇、ダンスといった既成のジャンルにとらわれない多くの作品が世界中で上演されている。第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示選出アーティスト(2022年)。

https://dumbtype.com
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