INTERVIEWS

SPECIAL INTERVIEW | 日立グローバルライフソリューションズ×カリモク家具 

家電と木製家具のクリエイティブな邂逅

2022年5月に発売を開始した、新コンセプトの冷蔵庫「Chiiil(チール)」。ライフスタイルや好みに寄り添うデザインと機能性で同年のグッドデザイン金賞を受賞し、多くの生活者に新しい選択肢を提示した。今回は「Chiiil」をさらに発展させるべく、日立グローバルライフソリューションズ株式会社(以下、日立GLS)と、カリモク家具株式会社がタッグを組み、協創プロジェクト「Chiiil with Karimoku(チール ウィズ カリモク)」が始動。約2年の開発期間を経て「Chiiil」と木製家具「MINIBAR(ミニバー)」を融合させた「Chiiil MINIBAR(チール ミニバー)」が誕生した。発想こそシンプルでありながら、これまで誰も成し得なかった新しい試み。 “デザインを起点とした心地よさ”をかたちにしたクリエイティブな道のりを、プロジェクトメンバーに伺った。

家電の枠を超えて見出した「ちょうどいい」。

(左から)武藤さん、野村さん、南野さん
南野 智之/ 日立グローバルライフソリューションズ株式会社
「Chiiil with Karimoku」の出発点は、2023年の夏でした。既に発売されていた「Chiiil」はそもそも、キッチン以外にも置かれることを想定し、高いデザイン性を備えた冷蔵庫です。であるならば、もっとインテリアフィットな、生活者に「ちょうどよく心地いい暮らし」を提供するためにできることがあるのではと考えていたんです。そのときにカリモク家具さんとお会いする機会がありまして、プロジェクトを一緒に進めたいとご相談させていただきました。
池田 令和/カリモク皆栄株式会社
私たちカリモクは木製家具をつくる企業ですので、家電メーカーさんからコラボレーションのお話をいただくことは非常に珍しく、私が知る限りで初めての事例です。もしかしたら、業界的にも新たな取り組みではないでしょうか。チャンスでもありますし、とてもわくわくするお話でしたね。
武藤 圭史/ 日立グローバルライフソリューションズ株式会社
初めての打ち合わせは、2023年9月だったと思います。我々がめざすところをカリモク家具さんにお話し、プロジェクトがスタートしました。
南野
最初はお互いを知るところから始めましたね。カリモク家具さんがどのようなお仕事をされているのか、また日立GLSがどのような目的を持った企業であるのかなどを共有しながら議論を重ねました。初期の打ち合わせでは冷蔵庫にこだわらずに「家電に木製家具のエッセンスを取り入れたらどういうものができるか」という切り口で幅広くアイデアを出していきました。
(左から)池田さん、今井さん
今井 則友/カリモク皆栄株式会社
当社は木製家具メーカーですから、日立GLSさんの持つ金属や樹脂についての知見・技術は大変勉強になりました。
南野
2022年に発売を開始した「Chiiil 」が生まれた背景を少しお話ししますと、当社には「きざし」というビジョンデザインのようなものがありまして。生活者の価値観変化をきざしとして捉え「2030年の人々はこういう考え方や行動をとるようになるかもしれない」という観点から仮説を立てるんですね。
武藤
いくつかの仮説のなかで「Chiiil 」誕生の起点となったのは、これから家庭での暮らし方、家電のあり方が変わっていくだろうという発想でした。お客様は、毎日の暮らしに「それぞれの心地よさ」を求め、より主体的に家電を選ぶようになります。それならば、冷蔵庫を置く場所はキッチンだけではなく、リビング、書斎、寝室など、身近な「冷たいものを置いておきたい場所」に存在しても良いのではないかと考えたのです。
南野
製品名の「Chiiil」は「冷やす、くつろぐ」を意味する「Chill」と、生活スタイルや好みに合わせて使うさまざまな人をイメージした「iii」を組み合わせたもの。発売以来、仕事・生活空間のインテリアにこだわっている方にお選びいただいています。お客様をお迎えする空間に置きたくて購入したというお声も聞きます。ホスピタリティのひとつとしても受け入れられているんですね。今回がカリモク家具さんと協創することで「Chiiil」をどのように拡張させていけるのか、というのが私たちの挑戦でした。

「ありそうでなかった」をかたちにする難しさ。

野村 皓太郎/株式会社 日立製作所
私たちが思い描いている製品をカリモク家具さんにお話し、ご提案いただくかたちでプロジェクトを進行しました。木材においては、従来の「Chiiil」10色のカラー展開とのバランスがよく、さらにインテリアのトレンドに沿うような素材を思い描いていました。「Chiiil」は、日本の住空間でインテリアと素材になじむ色を選定しています。木の部分は、明度や色味の違うものを揃えることで、冷蔵庫の色味と掛け合わせて選ぶ楽しさがあると良いと思いました。カリモク家具さんらしいオーク材や、トレンドとなっているオーク材をスモークしたのような濃い色合いのスモークドオークといった新しい色も取り入れて、新しさも追求したいとお話ししたと思います。
池田
そうですね。日立GLSさんが求められているのは、家電よりももう少しインテリアになじみ、さらに木の素材の良さを感じられるようなものでした。ご希望をふまえてご提案したのは、消費者のみなさまの暮らしに溶け込んでいる天然木材、カリモク家具のなかでも人気が高く、より多くの方に素敵な素材だと感じていただける木目の素材でした。
野村
高級な木材なども多種検討して、最終的に使いやすい素材に落ち着きましたが、提案段階では珍しい木も紹介していただきましたよね。「日立の樹」としてCMでも知られているモンキーポッドとか(笑)。
池田
楽器のネックなどに使われるような、希少な木材もご提案させていただきましたね。
木にはたくさんの種類があって、木目もそれぞれ、節があったり色や表情も異なり、雰囲気が変わります。たとえばメープルという木肌が白いものは、色目を薄く表現したい家具に向いています。ウォールナットであれば濃い色で、またちがう表情が生まれます。日立GLSさんが目標とする色を伺って、お互いに確認し合いながら素材を決めていきました。 
武藤
ご提案を見るたびに、カリモク家具さんはやはり木のプロフェッショナルだと感じました。とても多くの木を材料としてお持ちで、我々のつくりたいものやめざすところに合うものを丁寧に考えてくださった。「Chiiil」と融合する木製家具「MINIBAR」の棚は、飲み物のボトルやグラス、スナックなどを置くのに便利なだけでなく、暖かみのある質感を生み出しています。
今井
ただ、冷蔵庫と木部のジョイントは、簡単なことではありませんでしたね。木材は樹種や環境によって収縮が異なります。しっかりと乾燥させることや、木の性質に合わせて使い方を変えることなど…また無垢にするか、突板にするか、積層させるのかなど、適材適所で、必要な技術を選定することが必要でした。家具の取り付け方にも頭を悩ませました。ビスでしっかり止めたいところですが、もしもお客様が木の部分を持って持ち上げようとしたら破損するリスクがあります。しかし木部と「Chiiil」が簡単に外れてしまうのも良くない。検証の結果、ジェルで固定する方法を採用しました。ある程度の力を加えれば取り外せるけれど、簡単には取り外せない仕様にしました。
南野
社外の方、特に家具メーカーさんとのコラボをした「Chiiil with Karimoku」は、前例のない取り組みでした。社内的な話ですが、こういう斬新な製品を世の中に発信していくためには、社内で認知を得ることも必要でした。そこで、昨年コンセプトモデルを制作し、Karimoku Commons Tokyoで展覧会を開催したのですが、実物を見られる場を設けたことで、社内外からポジティブな声が集まり始めました。展覧会はわずか1週間だったのですが、お越しいただいた方々がコンセプトモデルを見て「こういうものがほしかった」「これは今買えるの?」と言ってくださったのは嬉しかったですね。「ありそうでなかった」という感想も多かったかな。このプロジェクトを応援してくれる人が増えていく実感がありました。
野村
アイデア自体は、実はシンプルなものなんです。デザイナーとしても「家電に木材の家具をアドオンしたい」というのはよく出る発想です。ただ、かたちになっているものがない。今井さんがお話しされたように、素材の違いから実現の難易度がとても高いんです。これまでも、フェイクの木を使って、温かみのある雰囲気をつくった製品は数多く存在します。でも今回我々がめざしたことはそうではなかった。だから、スペシャリストであるカリモク家具さんとのコラボレーションが必要だったんです。私もかなり反響をいただいています。「これ、よく具現化できたね」というような。
池田
「MINIBAR」の部分は、丸く削ったり直線で削ったりした素材を貼り合わせた、かなり手の込んだつくりになっています。家具として洗練されていて、しっかり作り込まれたものが「Chiiil」とリンクして一体型になってるところは、デザインの見どころでもあると思いますね。

デザイン起点での心地よさを体感してほしい。

「Chiiil MINIBAR」
武藤
デザイン面では冷蔵庫「Chiiil」の10色、そしてカリモク家具さんの木製家具「MINIBAR」4色を組み合わせることで、さまざまな表情が生まれます。明るい色を組み合わせて空間の中でハイライト的に見せることもできますし、インテリアや壁の色になじませることもできる。お客様の感性に寄り添っていける製品だということは、自信を持って言えます。
池田
カリモク家具は、家具以外のジャンルとの取り組みも積極的に行っています。しかし、家電というこれまでにない切り口で具現化したのは、本当に挑戦でした。日立GLSさんも、おそらく勇気が必要なプロジェクトだったと想像しています。だからこそ我々は真摯に向き合い、一緒に「Chiiil MINIBAR」をかたちにできたことを嬉しく思います。これからももし、カリモク家具にできることがあればぜひご協力させていただきたいです。
南野
私たちも今回、カリモク家具さんと一緒にもの作りさせていただいたことで大変学ぶことがありました。自社だけでは解決できない課題を、これからも生活者の方から学び続けたいです。そして、それに対するソリューションや製品を、自社のみで閉じることなくさまざまな方と協創しながら新しいイノベーションを生み出していけたらと思っています。家電はまだまだ使いやすく、面白くなれる、それを追求していきたいです。
DESIGNART TOKYOの展示場では、通常オンラインのみの販売となる「Chiiil MINIBAR」のさまざまなモデルとその他のコンセプトモデルを、一挙に、実際にご覧いただけます。ぜひ私たちの挑戦である「新しい暮らしの心地よさ」を体感して欲しいと思います。
ECサイト https://store.kadenfan.hitachi.co.jp/store/default.aspx

BRAND / CREATOR

日立グローバルライフ ソリューションズ株式会社

日立グループは、IT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを活用した社会イノベーション事業を通じて、環境・幸福・経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献します。その中で、日立グローバルライフソリューションズは、パーパスとして「ひとりひとりに、笑顔のある暮らしを。人と社会にやさしい明日を。私たちは、未来をひらくイノベーションで世界中にハピネスをお届けします。」を掲げています。家電品、空調機器、設備機器や、エンジニアリング・保守サービスを提供するとともに、フットプリントとプロダクトのデータから価値を創出するLumada事業に注力し、ワークトランスフォーメーションおよびグリーントランスフォーメーションの実現にOne Hitachiで貢献していきます。

https://kadenfan.hitachi.co.jp/
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