INTERVIEWS
SPECIAL INTERVIEW | 東京建物×ヨシダナギ
人間の美しさを、街のアートに。
現在解体工事が進む工事現場の大規模な仮囲いにアート作品を展示する「BAG@渋谷二丁目ストリートギャラリー」プロジェクトが始動した。仕掛けるのは、アートがもつ“空間を洗練させる力”に注目しさまざまな取り組みを続けている総合不動産デベロッパー ・東京建物株式会社。同社の声に応えてタッグを組んだのは、唯一無二の表現力で世界の少数民族やドラァグクイーンなどの個性に光を当てた作品を発表しているフォトグラファー・ヨシダナギ氏だ。渋谷にゆかりのある人々を被写体に、多様性が活きる街の姿を浮かび上がらせる本企画は、ヨシダ氏にとってもこれまでにないアプローチ。作品にかける想いやテーマ、被写体として追い続ける人間の美しさについてお話しを伺った。
渋谷の街を舞台に、人の魅力にフォーカスする。
ヨシダナギ
私、今回のお話を伺ったときシンプルに「楽しそうだな」と思ったんですよ。
 
中山 佳彦
そう感じていただけたのなら嬉しいですね。少し背景を説明しますと、もともと我々東京建物は、アートには人の暮らしを豊かにする可能性があると考えています。このたび、約4年にわたり運営してた京橋のギャラリー( BAG-Brillia Art Gallery- )が再開発により閉館するのをきっかけに、新たな展開への移行を始めました。それは特定のギャラリー・スペースを構えるのではなく、プロジェクトごとに展示場所を変えながら、場所の特性に合わせた作品・展示方法を探求する「サイトスペシフィック・ギャラリー」。今回のプロジェクト、渋谷二丁目の仮囲いにおけるストリートギャラリーは、その第一弾となります。渋谷に集う人々を切り取り、多様な個性が活躍する街を表現する本企画は、ぜひヨシダさんのお力を借りたいと思いました。
ヨシダ
私は、誇りを持つ人を被写体として追いかけたいという気持ちを持っています。ただ私にお声がけいただくお仕事は、やはり少数民族やドラァグクイーンなど、いままで発表してきたものに関わるテーマが多いのです。そのなかで今回は、日本での撮影、しかも東京・渋谷にゆかりのある人々を撮るということが自分にとってまず新しい。なかなか出会えない縁を紡いでいただいたことがすごく嬉しくて、やってみたいなって。
 
中山
作品集「HEROES」を拝見するとよくわかりますが、ヨシダさんの写真は人の個性をとらえることはもちろん、色彩が非常に豊かですよね。実は工事現場の仮囲いに作品を掲出するプロジェクト自体は、珍しいものではないんです。でも、ヨシダさんによって切り取られた渋谷に集う多様な人々の個性あふれる写真が、大きな白い面に掲出されていくことは、大変素敵なアートになるだろうと感じています。渋谷区の基本構想「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」を表現することにも通じ、これまでの仮囲いプロジェクトにはない魅力が生まれるでしょうね。
 
ヨシダ
渋谷という街には、文化や職業など、さまざまに異なる背景を持った方が集まりますね。その時代の人たちがいる東京の中心、それが渋谷だと思っています。普段交わることのない人たちに出会えるのもこのプロジェクトに興味を持ったところです。これから被写体として一般の方の公募も始まりますが、どんな方が現れるんだろうって、本当に楽しみで。
 
中山
撮影自体をイベント化して地域とつながり、地域の人々が参加できるようにする。それが本プロジェクトの面白みでもありますよね。
 
ヨシダ
日本人を撮る経験値が圧倒的に少ないことに加え、一般の方を撮るのは私に撮って初の試みなんです。私は、言葉に頼らないコミュニケーションの方が得意だったりするので、アフリカに少数民族を撮りに行くよりも緊張していますよ(笑)。
素の顔と外向きの顔、その中間をねらった。
ヨシダ
少数民族を撮影するときは、基本的に誇りや文化、彼らが持っているアイデンティティにフォーカスするんですね。でも今回渋谷の街で撮影をした方々は、誇張しすぎずに、でもその人たちの個性を出せたらいいなと思いながら撮影をしていました。
 
中山
誇張し過ぎないというのは、どういうことでしょうか?少し意外な感じもしますね。
 
ヨシダ
私の作品は、あえて演出っぽくしているものが多いんです。でも今回はもっと生に近いというか、リアリティがあったほうが「この人、確かにいるな」と見た方に伝わると考えました。誇張してしまうと、実際に渋谷の街、身近にいる人なのに遠く感じてしまう気がしたんですね。
 
中山
なるほど、そういうことですか。面白いです。
 
ヨシダ
今朝、スクランブル交差点で撮影をしましたが、その方の職業や携わっているもの…バスケットボールやスケートボードなどを持っていただき、作り過ぎずに自然に撮りました。時間が限られた撮影でもあったので、あまり被写体の方とじっくりお話しはできていませんが、ファインダーを通してその方の表情を特に観察しました。撮影に慣れてない方もいらっしゃるので、できるだけ普段とよそゆきの顔の中間をねらったんです。かっこつけすぎてしまうと、誇張になってしまう。その人ではなくなってしまいますよね。でも外に出た時の、ちょっとおしゃれしたような自分というのもあるじゃないですか。そのふたつの間にある表情を撮れたら新鮮な写真になると思いました。
中山
最初は緊張しているように見える方もいらっしゃいましたね。周りのスタッフも積極的に声をかけていました。
 
ヨシダ
そうなんです。先ほども言いましたが私は言葉で伝えることがそこまで得意ではないのと、声が小さくて通りにくいので(笑)。周りから自然に「いいね」と拡声器のように声をかけてもらうと、被写体の方も気持ちが乗ってきて安心されることは多いです。スタッフの方にはいつも助けていただいています。
 
中山
街の人たちは撮影をしていても慣れているのかちらっと見るだけで通り過ぎて行きましたね。それが東京の人の気遣い方なのかな、と見ていて感じました。
 
ヨシダ
そうですね。よくも悪くも無関心なのが東京の人というか。殺伐としているとも言えるけど、撮影はしやすいかな。これが大阪ですと、話しかけてくるイメージがありますね(笑)。
中山
普段ヨシダさんが行われる撮影と、今回の撮影とではなにか違いを感じたことはありますか?
 
ヨシダ
フィードバックの速さですね。この角度で撮ってほしいとか、こういう写真は初めてで嬉しいとか。瞬間的にそういう言葉が返ってくるのはライブ感がありました。
少数民族の方って、「俺たちかっこいいでしょ、かっこよくて当然でしょ。」と思っているんですよ。だから、撮った写真を見せても特に驚いたり喜んだりもせず「ああ。」みたいな、大御所のような反応が返ってくることが多い(笑)。でも、普通はタレントさんなどでない限り写真を撮られ慣れていないものですし、カメラと目を合わせてくれないケースが多いです。今回も半分くらいのモデルさんがそうだったかな。そういう被写体の気持ちをどこまで自分が汲み取ることができるかが大事だと思っています。またたとえば本人は右側から撮られたい、でも私は逆が素敵だなと思っているということがあったときに、本人にとって逆側はコンプレックスだったりするわけです。それを拭いながら、自然な表情や魅力的な姿を撮りたい。撮影ではそういうことがしたいなといつも思っています。
 
中山
ご自身の写り方に強いこだわりのあるモデルさんたちもいらっしゃいましたね。自分からみたら弱点かもしれなくても人から見るとそうではない、そういうことは確かにある気がします。そして実際にすごくかっこいい写真を撮られていました。
 
ヨシダ
はい。こういう自分を見せたい、この顔は嫌いというのが明確にある場合、もちろん私達がどうこう言うものではないんですけど、でもご本人がコンプレックスだと思っているところって私達からしたらすごく魅力的な部分だったりするんですね。今回もそこは根気よくセッションをしました。最初は拒絶されていても次第に「いいよ、じゃあこっちでやってみようか」と言ってもらえることもありましたね。
自分を認める。それが美しいということ。
ヨシダ
被写体について考えると、私はやっぱり人間の顔が一番好きなんですね。「美しい」って、自分のことを認めている人だと思っています。最初私は「自信がある人が美しいんだ」と思っていたんですよ。それこそ少数民族みたいな。もちろんそれも事実ですが、コンプレックスを抱えながらも、そこと折り合いをつけながら生きている人たちには人間らしい個性があり、魅力があると思うようになりました。本プロジェクトで撮影をした方々は、みなさん強くそれぞれの個性を持っていたと思いますね。誰一人、かぶっていないというか。
また、個性ってよく「認め合おう」と言われますが、それはどうしてもおしつけがましいし反発も生まれるように思うんです。少数民族の方とセッションしていると「ちがって当然」ということを感じます。その違いを、もちろん同調してもいいのですが、まず自分に落とし込むこと。ただ驚くだけでも良いと思うんです。違うほど魅力的であり、遠いほど、共通点を見つけたられた嬉しい。私は個性をそういうふうにとらえています。
中山
今回、撮影を見ていて私が感じたことですけれども、撮影前にはみなさんそれぞれ色々なお喋りをされていた。活気がありましたね。撮影が始まると、当たり前ですが静かになる。でも、空間にはその方が発していた個性がそのまま残っていました。あれは面白いなと思いました。
 
ヨシダ
おっしゃる通りです。撮影前の現場の空気というのは、必ずファインダーに入り込みます。ですから、あまり会話をせずにお一人で現場に来た方の緊張感は凄まじい(笑)。私は普段、言葉が伝わらない被写体を相手にすることが多いので態度で示すという撮影スタイルをとっていますが、今回のように共通言語がある方々には、その方の納得する写真をできるだけ早くみせてその魅力を伝えてあげることが緊張を解くことにつながる近道だと実感しました。自分がよく写っている写真を見て笑顔になったら、ファインダーを見てくれるようになりますから。
中山
今回は渋谷の街を舞台にいろいろな場所で撮影をしますが、ロケ地もいくつかヨシダさんにご提案いただききましたね。
 
ヨシダ
スクランブル交差点など、いわゆる渋谷らしい場所ももちろん良いのですが、私からは宇田川町にあるシーシャバーと歩いていて見つけた八百屋をご提案しました。よく見る渋谷ではない側面からアプローチできたら面白いかなと思って。シーシャバーはなんだか敷居が高く、こんな機会だからこそ入れる場所だな、という個人的な思いもありましたね(笑)。
 
中山
このストリートギャラリーには、第1弾の作品が10月末、第2弾の一般公募で選ばれた方を被写体とした作品が11月下旬から展示される予定ですので、楽しみにしていただけると嬉しいですね。日常のなかでアートが普及する取り組みのひとつになればいいなと思っています。また、こういうプロジェクトは他の街でも展開できたら面白いな、なんて、我々はまちづくりの会社なので、そんなことも考えていました。
 
 
ヨシダ
それも楽しそうですね!私、日本人ってとても魅力的な人種だと思っているんですね。ただ少し人に無関心な傾向がある一方、他の人と一緒じゃないといけないと無理やり自分を合わせてしまうところがある気もしています。でも実際は、誰しもが人とは違う魅力や美しさを持っています。写真でそこにフォーカスできたらなと常々思っているので、今回のような街に集う人を撮影するというプロジェクトに参加させてもらったことは光栄でした。写真を通して、人の表情や醸し出す雰囲気、多面性が伝わったらと願っています。作品を見た方も、被写体になってくださった方も、人間って面白いな、撮ってみようか、繋がってみようかと、人と向き合うきっかけになったら嬉しいですね。
Interview and Text : Sayoko Shimizu
【告知】被写体募集
応募期間
2025 年 10 月 16 日(木)- 2025 年 10 月 22 日(水)
当選者連絡日
2025 年 10 月 24 日(金) ※予定
撮影日
2025 年 11 月 3 日(月)※時間は別途ご連絡します。
撮影場所
東京都渋谷区内 ※屋内外での撮影を予定しています。
展示場所・期間
場所
東京都渋谷区渋谷二丁目12番地他
(東建インターナショナルビル、東建長井ビル跡地)
期間
第1弾:2025年10月31日 - 2026年4月30日(予定)
第2弾:2025年11月下旬より順次掲出 - 2026年4月30日(予定)
※ 本募集は、第2弾の期間に掲出されます。
募集対象
渋谷で暮らす、働く、活動するなど
渋谷との深い関わりのある方。
※年齢・国籍・職業などは不問とし、未成年の場合は保護者の同意が必要です。
※応募時にご自身と渋谷との関わりについてご記入いただきます。また、ご自身のお写真を提出いただきます。
撮影アーティスト
ヨシダナギ(フォトグラファー)
詳細・応募
https://art.artsticker.app/bag-s2sg
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